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お酢の科学 |
酢は健康飲料としても最近注目されています。ダイエットに効くとか、血液がサラサラになるとか、いろいろな情報を耳にしますね。そもそも酢は何からどうやって作って、どんな種類や特長があるのでしょう。今回はそんな酢についての基礎知識をご紹介します。
酢は、塩のようなそのまま使うものを除けば、人間が作った最古の調味料といわれるほど、古くから使われています。一説には紀元前5000年ごろのバビロニアで使われた記録があるとか。
世界各地でその土地特有の酢が作られるのですが、日本には4世紀ぐらいに中国から伝わったのではないかと考えられています。おもに米から作る米酢が中心でしたが、1804年にミツカンの創始者でもある中野又左衛門が酒粕から作る粕酢を考案し、これが江戸前寿司に欠かせないものとして広く使われるようになりました。
酢はJAS(日本農林規格)で醸造酢と合成酢に大きく分けられますが、酢のおもな原料である酢酸にいろいろ混ぜて作る合成酢は、日本ではほとんど作られておらず、醸造酢が多くを占めます。醸造酢はその原料から、おもに穀物酢(米酢,黒酢,モルトビネガーなど)と果実酢(ワインビネガー,りんご酢,柿酢など)に分けられます。
酢を作るためには、酢酸を作る酢酸菌による発酵を利用します。この酢酸菌は、お酒に含まれるエチルアルコールを使って酢酸を作るので、酢を作るときはまずお酒を造って、そこに酢酸菌をいれて発酵させ、数ヶ月熟成して完成となります。そのため世界各地では、それぞれの地元のお酒を使ったさまざまな酢が作られています。
ワインの産地であるフランス,イタリア,スペイン,ポルトガルなどでは、ワインを原料としたワインビネガーがおもに作られます。酢はフランス語でvinaigre(英語ではvinegar)といいますが、これは「ワイン(vin)」と「すっぱい(aigre)」に由来しているのです。ワインと同様にワインビネガーにも赤と白があり、赤はやや苦味と渋みがあって、それぞれ合う料理に使われます。ちなみに人気のバルサミコ酢は、イタリアで白ぶどうから作られます。
他にも麦芽を使ったウィスキーやビールの産地であるイギリスや北欧では、麦芽からつくるモルトビネガー(麦芽酢)が、米から作る日本酒の産地日本では米酢や粕酢が作られているのです。
酢は酵母によるアルコール発酵と、さらに酢酸菌による酢酸発酵という複雑な過程で作られることもあり、実にさまざまな成分が含まれています。すっぱさの素である酢酸のほかに、乳酸、コハク酸、りんご酸などの有機酸や、エステル、アルコール、各種のアミノ酸などがその風味を形作っています。
そのため、酢には多くの効能があることがわかってきました。酸味による食欲増進や、酸による殺菌・防腐・タンパク質の変性(魚をしめる)などは昔から知られていますが、疲労回復、肥満の抑制、高血圧防止、糖尿病予防などに効果があることが、医学的にも証明されるようになってきたのです。
人間が活動するとエネルギーを細胞で作り出した後に、疲労物質と呼ばれる酸性物質が残るのですが、酢に含まれるクエン酸がその酸性物質と結びついて、最終的には炭酸ガスと水に分解することで、疲労物質の蓄積を防ぎ疲労回復を図るわけです。そのためよく言われる酸性の体質から、アルカリ性の体質に変えることができるのです。
また代謝を上げることで脂肪分解促進の効果があることも認められ、運動の前に酢をとることで、効率的に脂肪を燃やすことができます。そのほかアミノ酸の一種により血管が広がることで血流がよくなり、また血液をサラサラにするので肩こり,冷え性によく、血圧も下げることができます。カルシウムの摂取にも効果的なので、骨粗しょう症の防止にもよいですね。
このように体によい酢ですが、古来日本料理ではさまざまな使い方をしてきました。単独で使うよりも、二杯酢(酢としょうゆをあわせる)、三杯酢(酢、しょうゆ、みりんをあわせるのが基本)、甘酢(酢に塩と砂糖かみりんをあわせる)などの合わせ酢として多く使います。料理店によっては数十種類の合わせ酢を用意しておいて、その日の気温や時間帯にあわせて、微妙に変えながら出すこともあります。また寿司に使うすし酢も、地方やお店によって千差万別で、それぞれの個性を出す大切な材料です。
飲むだけでなくいろいろな料理で味わうことで、日本料理という独特の文化の奥深さを知ることができます。 |
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