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大豆から作る発酵食品
〜みそ〜 |
日本は温暖で湿度が高く、発酵にはもってこいの気候です。そのためお酒や調味料をはじめ、さまざまな発酵食品が発達してきました。中でも微生物が作る芸術品とも言われ、複雑で巧妙な味のバランスのうえにできているのが、今回ご紹介するみそです。
みそのルーツも、しょうゆでご紹介した中国の醤です。6世紀末ごろに、高麗の人が大豆にこうじを混ぜて作る豆みそを伝えたのが始まりと言われており、平安時代には大豆と米こうじを使うみそが作られ始めましたが、まだ高級品でした。
鎌倉時代に紀州の僧侶覚心上人が、中国から持ち帰った径山寺みそ(きんざんじみそ 金山寺みそとも書く)の作り方を農民に教えたのは有名な話です。金山寺みそとは、大豆と麦をあわせたこうじに、いろいろな野菜を漬け込んだもので、いわゆる「なめみそ」とよばれる、おかずにするみそです。
また鎌倉時代には、禅僧たちが大豆の粒が残る粒みそをすって「こしみそ」を作るようになり、みそ汁が作られるようにもなりました。
みそが庶民にも広く使われるようになったのは江戸時代からですが、それにともない各地で個性的なみそが多く作られるようになりました。もともとは大豆にこうじを混ぜて作る、いわゆる「豆みそ」が始まりでしたが、米作の普及によって米こうじを使う「米みそ」が主流になっていきました。
現在では全国で作られるみその約8割が米みそです。米みそとは、蒸した米に種こうじ(こうじカビというカビの一種)をつけて2日ほどおいて米こうじを作り、それに蒸した大豆と塩、水を混ぜて桶に入れ、重石をして熟成させて作ります。ただし大豆に対する米こうじの割合や、塩加減、熟成期間などの違いよって、実にさまざまな風味のみそができます。味によって甘,甘口,辛口、また色によって白,淡色,赤などに分類されますが、同じ米みそでもそれほどバリエーションにとんでいるわけです。
また比較的温暖な九州・沖縄や四国の西側、山口県などでは、麦こうじを使った「麦みそ」が多く作られます。別名田舎みそともいわれ、農家の自家製みそには麦みそが多いのですが、温暖な地域では大豆の発育があまりよくなかったこともあり、豊富にある麦が使われるようになったといわれています。
みそのはじめは豆みそでした。大豆を蒸してつぶし、それをかためてこうじをつけた「みそ玉」を原料に作ります。現在豆みそが盛んに作られているのは、愛知,三重,岐阜の中部地方で、八丁みそや三州みそなどが有名です。
濃い赤褐色が特長で、香りと濃厚な旨味は、独特なものがあります。しかし好みもあるので、ブレンドされることも多く、米みそとあわせた赤だしなど、「合わせみそ」と呼ばれるみそも増えてきています。
みそはさまざまな微生物のはたらきで、複雑な風味が作られていきます。まずこうじが大豆や麦に含まれるでんぷんを分解してブドウ糖や麦芽糖などを作り、これが甘みのもとになります。さらにこれらの糖を使って乳酸菌が乳酸や酢酸などの有機酸を作り、塩味をやわらげたり、他の素材のおいしさを引き立てたりします。
またこうじは大豆などに含まれるタンパク質を分解して、旨味成分である約20種類のアミノ酸も作ります。これらの働きで、複雑な味と香りが生成されるのです。
このように発酵によってあの風味が作られるのですが、同時にさまざまな効用も生まれます。もともと「畑の肉」といわれるように、良質なタンパク質を多く含む大豆から作られるので栄養価は高いのですが、発酵によって必須アミノ酸を含む多くの栄養素も作られます。
さらに大豆アレルギーのもとになるタンパク質やペプチドが、発酵によって分解されてしまうので、大豆アレルギーの人でも食べられるのもうれしいところです。
またコルステロールを排出する働きのあるレシチン、腸内環境をよくするビフィズス菌の栄養となるオリゴ糖、細胞の酸化を防ぐことで老化防止の作用があるビタミンE、便通をよくする食物繊維など、さまざまな体にいい成分を含んでおり、昔ながらの健康食品として、これからも日本人の食卓には欠かせない調味料として愛されていくでしょう。 |
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