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梨について |
みずみずしいナシは、夏から秋を代表する果物のひとつ。あのサクサクした食感がたまりません。でも同じナシでも、洋ナシとは風味や食感がずいぶん違います。今回はそんなナシについて、簡単にご紹介しましょう。
ナシはバラ科ナシ属で、20数種類あるといわれますが、大きくニホンナシ、セイヨウナシ、チュウゴクナシの3群に分けられます。
ニホンナシは野生のヤマナシを改良してできたといわれますが、古くは弥生時代の登呂遺跡から種が出土したり、日本書紀にも出てくるように、かなり古くから栽培されていました。しかし本格的に普及し始めたのは江戸時代で、日本独特の棚仕立て(栽培管理や台風対策のため、1.8m前後に水平に整える作り方)や接ぎ木、せん定などの手法も、江戸時代後半に確立していきました。
明治20年代に代表的な優良品種である長十郎や二十世紀が発見されると、大正時代以降はそれらをもとにした品種改良が盛んに行われ、おいしく病気に強い品種をめざした研究が続けられたのです。その結果、やわらかく甘みが強い三水(幸水,新水,豊水)と呼ばれるような人気の品種も生まれました。
特徴としては、石細胞と呼ばれる果肉細胞の一部が木質化してできる粒が多く含まれることで、ざらざらとした舌触りから、欧米ではチュウゴクナシとともにサンドペア(砂のナシ)と呼ばれます。
セイヨウナシは、ヨーロッパ原生種をもとに有史以前から栽培されており、ローマ帝国全盛期にはヨーロッパ西部や中部に広まり、11世紀以降は各地で栽培されるようになりました。
形はいわゆる洋ナシ型が多く、香りが強いのが特徴です。セイヨウナシは木になったままでは成熟せず、収穫して1〜2週間冷蔵した後、4〜10日ぐらい20℃前後で追熟することで、やわらかくなり、香りや甘さを強くします。
セイヨウナシは日本にも明治時代に輸入され栽培が始まりましたが、夏季に高温多湿な日本の風土に合わず、また風味ややわらかい歯ざわりなどが日本人にあまり好かれないこともあり、現在でも収量はあまり多くありません。ただしほとんど生で食べるニホンナシに対して、セイヨウナシはコンポートやババロア、シャーベットなどの材料として使われることも多く、お菓子作りには欠かせない材料のひとつでもあります。
ニホンナシなどに多い石細胞は少なく、やわらかくねっとりとした舌触りから、欧米ではバターペアとも呼ばれます。サクサクしたニホンナシに慣れている日本人にとって、同じナシとは思えないという感想もあると思いますが、最近は徐々に食べる人も増えてきているようです。
ナシの成分は84〜89%とほとんどが水分で、そのほかはショ糖,果糖,ブドウ糖などの糖類(10〜14%)が主成分です。無機質ではカリウムが多く、代謝の促進に効果的です。
体を冷やす食べ物として、妊婦にはよくないと古くから言われていますが、歯痛止めや麻疹よけに使われていました。
ナシの語源にはいくつかの説がありますが、中が白いので「中白(ナカシロ)」と呼ばれた、あるいは中心がすっぱいことから「中酢(ナカスキ)」と呼ばれというのが、有力な説とされています。またナシは「無し」に通じることから、「ありの実」と呼びかえられることもありました。
ナシのつく言葉として、歌舞伎界をさす「梨園(りえん)」というのがありますが、これは中国の唐の玄宗皇帝が、ナシを植えた庭園で音楽や戯曲を教えたという故事によるものです。昔はひろく演劇や音楽などに従事する人々を意味する言葉でしたが、今では伝統的な芸能である歌舞伎の世界に残っています。
このようにナシにかかわる故事はいろいろありますが、ナシが古くから身近な存在であったことを表しているのかもしれません。 |
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