ケーキなどの洋菓子には、お酒をよく使います。ケーキの歴史にはよく登場する、かのスタニスラス・レクチンスキー公も、ケーキにラム入りのシロップをかけて食べるのがお好みだったそうで、アリババにちなんで「ババ・オー・ラム」と呼び、今でもフランスなどで親しまれています。
お酒をケーキに使うのにはいくつか理由がありますが、まずは香り付けでしょう。卵やバターなどはケーキには欠かせないものですが、素材の香りが強すぎる場合もあります。そんなときにお酒を使うと、マイルドな風味になります。また焦げ臭さをやわらげる働きもあります。
もうひとつ大切な役割は、ケーキを膨らませるのを助けること。沸点が低いので早く蒸発し、ふっくらとしたケーキになります。また砂糖の甘さをやわらげるので、まろやかな甘さに仕上がります。
そのほかにも、フルーツを使ったケーキでは、同じフルーツから作ったお酒を使うことで、よりその素材の持ち味を引き出す効果もあります。
そんなお菓子作りに使われるお酒ですが、今回はブランデーについて簡単にご紹介しましょう。
「お酒の基礎知識 醸造酒と蒸留酒」でご紹介したように、お酒は醸造酒と蒸留酒に大きく分けられますが、ブランデーは蒸留酒の代表的なお酒です。
本来ブランデーとは、ブドウを発酵させたワインを、蒸留して作るお酒のことでしたが、今では果実から作られる蒸留酒は広くブランデーと呼ばれます。
その代表的な産地はフランスで、特に西南部のコニャック地方と、南部のアルマニャック地方が二大生産地とされます。17世紀ごろから商業化されてきましたが、フランスでは法律で生産地域や原料、蒸留法が厳しく決められており、さらにそれぞれの同業者事務局によって、VSOPなどの表示基準も作られています。こうやって、品質をきちんと管理し、ブランドを守っているわけです。
コニャック地方は、フランスの西南部を流れるシャラント川流域の地域で、ここでおもにサンテミリオン(地元ではユニ・ブランとも呼ぶ)種というブドウを原料に作られます。
サンテミリオン種で作るワインは、酸が多くアルコール分が少ないので、ワイン作りには適していません。しかしブランデーに熟成する間に、酸は芳香成分に変わり、またアルコールが少ない分多くのワインを使うので、ブドウの風味が凝縮されて、より芳醇なブランデーが生まれるのです。
ブランデーは蒸留した原酒を樽で熟成させ、古い原酒と若い原酒をブレンドして作ります。その若い原酒の熟成期間によって、VSOP,XO,NAPOLEONなどの表示基準が決められており、コニャックやアルマニャック産のブランデーでは、それらに沿った表示がされています。
アルマニャック地方は、南フランスのピレネー山脈に近い地域で、やはりサンテミリオン種のブドウが、おもに使われます。しかしコニャック地方とは、風土や蒸留法、熟成法がやや異なるので、違った風味のブランデーができます。
アルマニャックはフレッシュな味わい、コニャクはエレガントな風味といわれています。
他にもおもなワインの産地では、基準に達しないワインやタンクの底に残ったワインなどを原料にして、ブランデーが作られています。またワイン用のブドウから果汁を搾った残りカスを、発酵させて作る、カスとりブランデー(マールと呼ばれる)も多く作られています。
ブランデーというと、ブランデーグラスに少し注いで、まわしながら飲むイメージが強く、水で割ったりすると怒られたりしますが、ヨーロッパでも水割りにして、気軽に楽しむことも多いそうです。
たまには本場のブランデーで、リッチな風味のケーキを楽しんでみてはいかがでしょうか。
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