世界でもっとも広い面積を使って、もっとも多く作られている果物は何だかご存知でしょうか。答えはブドウです。それもそのはず、なんと人類のブドウ利用には8000年の歴史があるといわれています。
今回はそのブドウについての基礎知識として、歴史と由来などについてご紹介します。
ブドウの原産地は、今のロシア コーカサス地方から、地中海東部沿岸地方あたりと言われています。ブドウは大きく分けて、ヨーロッパ種、アメリカ種、それらの雑種の3種類あるのですが、そのうちのヨーロッパ種の原産地が、そのあたりなのです。
すでに新石器時代から人類は野生のブドウを食べていました。そして食べるだけではなく、ワインや干しブドウなどの原料としても、かなり古くから利用されてきたと思われます。
ブドウと人類の歴史を語る上で、ワインに触れないわけにはいきません。現在でも世界で作られるブドウの80%は、ワインを作るために使われているのです。
最初にワインを作ったのは、B.C6000年ごろの、メソポタミアのシュメール人といわれています。
古代エジプトでは、B.C3000年ごろにはブドウ栽培の記録があり、B.C2400〜2300年ごろの壁画には、ワインを醸造する場面が描かれています。
そして、エジプトからギリシア、ローマを経て、西ヨーロッパにもたらされました。現代のワイン醸造技術の基礎が作られたのが、ローマ時代だといわれています。
このようにブドウと人間のかかわりにはには長い歴史があるので、古くからいろいろな文献や絵、模様などに登場します。
たとえば旧約聖書でモーゼがエジプトを出て、約束の地カナンに入る前に、その土地を調べさせます。そのときに男たちが2人がかりで棒にさげて持ってきたのが、ブドウの房でした。そのため、ブドウは約束の地=楽園の象徴とされたほか、キリストの受難の象徴にもなり、中世以降にヨーロッパの教会のステンドグラスなどに、よく用いられました。
また古来ブドウは豊穣を表し、エジプトやギリシアで豊穣の神にささげられて、その神殿はブドウのツルで飾られました。これがいわゆる唐草模様になって、各地に広まり、中国、朝鮮を経て、遠く日本までも伝わりました。古代の鏡の模様のほか、奈良の薬師寺の薬師如来像の台座に使われるなど、いろいろなところで見ることができます。そういえば昔は、唐草模様の風呂敷なんてありましたね。
ヨーロッパやアジアだけでなく、日本でも古い文献にブドウが登場します。
古事記の中で、イザナギは亡くなった妻のイザナミを黄泉の国に追って行きますが、正体を見て、あわてて逃げ帰ります。そのとき追っ手の鬼たちに追いつかれそうになり、髪飾りを投げると、そこからエビカヅラが生えて実がなり、鬼たちがそれを食べているうちに、一息つく話が出てきます。
このエビカヅラは、今でも山などに生えているヤマブドウの一種のエビヅルのことです。このように、日本でも古代から親しまれてきた果物であることが、よくわかりますね。
ところでこのブドウという名前ですが、もとはペルシア語のbudaw(ブウダウ)が、中国で漢字をあてられて葡萄(ブウタオ)とされ、これが日本に伝わってブドウになったといわれています。このように名前から見ても、中央アジアから長い旅を経て伝わってきたことが、よくわかりますね。
次回は、ブドウの種類や特徴について、ご紹介します。
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